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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)90号 判決 1996年11月27日

東京都北区西ケ原1丁目30番1-1202号

原告

亡増田閃一訴訟承継人

増田佳子

訴訟代理人弁理士

斎藤侑

伊藤文彦

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

竹井文雄

逸見輝雄

吉村宅衛

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第17928号事件について、平成6年2月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯及び訴訟等の承継

増田閃一は、昭和59年1月19日、名称を「高圧パルス電源」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭59-7770号)が、平成3年8月20日に拒絶査定を受けたので、同年9月18日、これに対する不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成3年審判第17928号事件として審理したうえ、平成6年2月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月28日、増田閃一に送達された。

増田閃一は、平成7年4月27日に死亡し、相続人(妻)である原告増田佳子が、本願発明の出願人及び本訴原告の地位を単独承継した。

2  本願発明の特許請求の範囲第1項の記載

高圧変圧器の一次側に交流電源を、二次側に整流回路を接続してなる高圧充電電源の両出力端子間にパルス電圧成形用高圧コンデンサを接続し、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間にパルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間に逆充電防止用の逆バイアス整流器を接続し、かつ高速高圧スイッチ素子として、オン動作後直ちにオフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子を用いると共に、該高圧充電電源に下記の電流阻止機構、即ち、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子のオン動作後、少なくともそのオフ状態が回復するまでのスイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止して該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を抑止し、これにより該負荷への続流電流の発生を防止すると共に、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子の非導通期間には上記出力電流抑止機能を解除して、該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を可能ならしめる所の電流阻止機構を具備することを特徴とする所の高圧パルス電源。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明の要旨を特許請求の範囲第1項記載のとおりと認定し、本願発明は、特開昭54-66353号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、引用例の記載事項の認定は、「充放電コンデンサ6の両端子間にパルス高電圧を印加するための主制御用サイリスタ7を介して負荷を接続してなる高圧パルス電源」(審決書3頁14~17行)が記載されている点を否認し、その余は認める。引用例発明の変圧器4、トランジスタスイッチング回路3、全波整流回路5、充放電コンデンサ6が、それぞれ、本願発明の高圧変圧器、交流電源、整流回路、パルス電圧成形用高圧コンデンサに相当することは認めるが、引用例発明の制御用サイリスタ7が本願発明の高速高圧スイッチに相当すること、引用例発明において制御用サイリスタ7がオン動作で負荷に高圧パルスを印加するものであること(同5頁6~8行)は否認する。

本願発明と引用例発明との一致点の認定は争う。相違点A及びBの認定、相違点Aについての判断は認める。相違点Bについての判断は争うが、制御用サイリスタをオンからオフに復帰させる時間間隔は、必要に応じて適宜設定される事項であること(同7頁16~18行)は認める。

審決は、本願発明の特許請求の範囲第1項の解釈を誤った結果、本願発明と引用例発明の一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点Bについての判断を誤り(取消事由2)、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(一致点の誤認)

(1)  本願発明の特許請求の範囲の解釈の誤り

本願明細書(甲第2~第4号証)の特許請求の範囲第1項(以下、特に断らない限り、「特許請求の範囲」という。)には、「パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間にパルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において」と記載され、発明の詳細な説明には、この高圧パルス電源につき、「従来、上述の如き負荷(注、オゾナイザ等の容量性負荷のこと)を対象とする高圧パルス電源においては」(甲第4号証明細書7頁13~14行)、「パルス電圧を周期的に発生することが出来なくなる」(同8頁14~15行)、「得られるパルス電圧の周波数が高く出来なくなるという欠点が生じ」(同9頁4~5行)、「本発明の目的は、上述の欠点を簡単な手段で克服した安価、高信頼度、かつ高効率の高圧パルス電源を提供するにある。」(同9頁10~12行)と記載されている。これらの記載からすると、本願発明の「高圧パルス電源」は、オゾナイザ等の容量性負荷を対象とする(同7頁6~8行)高い周波数のパルス電圧を周期的に発生させるものであると解さなくてはならない。

また、その「高速高圧スイッチ」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「コンデンサーの今一つの端子と該負荷の今一つの端子の間に介入接続して両者を周期的に短時間導通せしめ、その充電電圧をパルス高電圧として該負荷の両端に印加するための高速高圧スイッチ素子」(同10頁15~19行)と記載されているので、この「高速高圧スイッチ素子」は周期的に短時間導通せしめる機能を持つものと解される。したがって、このような機能を持つ高速高圧スイッチは、周期的に短時間導通するので、そのとき、負荷の両端に発生する出力電圧が周期的パルス電圧であることはいうまでもない。

さらに、本願明細書の特許請求の範囲には、上記記載部分以外にも「パルス電圧」との記載が各所にあり、該「パルス電圧」における「パルス」が周期的パルスであることも同様に発明の詳細な説明の項の各所に記載されている(例えば、同12頁1~2行、11~12行)。そのうえ、一般にパルス電圧とは、電気工学上継続時間の短い電圧の波形であって、多くの場合一定の周期的繰返しを有しているものをいう(甲第7号証)のである。

以上のことからすると、本願発明の特許請求の範囲の「パルス高電圧を印加する」との記載は、「周期的パルス高電圧を印加する」との意味に解すべきであり、審決は、この記載の解釈を誤って、本願発明の要旨を認定したものである。

なお、出願人が、出願当初の明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲第1項の末尾の「以後、上記の動作を周期的にくり返して、該負荷に周期的パルス高電圧を印加する」との記載を平成3年10月18日付けの手続補正書(甲第4号証)で削除した理由は、その記述が上記特許請求の範囲に記載された各構成要素の使用方法にすぎず、また、当該構成要素を具備していれば当然そのような使用方法を得られるので、実質的な重複を避けるためであり、この補正により特許請求の範囲を拡張したものではない。

(2)  一致点の誤認

審決は、本願発明と引用例発明とは、「パルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において、該高速高圧スイッチ素子のオン動作後、少なくともそのオフ状態が回復するまでのスイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止して該パルス電圧成形用高圧コンデンサの充電を抑止し、これにより該負荷への続流電流の発生を防止すると共に、該高速高圧スイッチ素子の非導通期間には上記出力電流抑止機能を解除して、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの充電を可能ならしめる所の電流阻止機構を具備する点」(審決書5頁18行~6頁8行)で一致すると認定しているが、誤りである。

<1> 前記のとおり、本願発明の「高速高圧スイッチ」は、周期的に短時間導通することにより、負荷に周期的パルス電圧を印加するものであり、「高圧パルス電源」は、高い周波数のパルス電圧を周期的に発生させるものである。

これに対して、引用例発明の出力端子(甲第5号証第1図中、母材8が接続されている◎で示された部分)には、操作者がサイリスタ7をトリガしている間(同号証8欄9~11行)、コンデンサ6の直流電圧が印加されるようになっていて、本願発明のように、コンデンサと負荷の「両者を周期的に短時間導通」する高速高圧スイッチによってパルス高電圧を発生する(甲第4号証明細書10頁15~20行)ことができない。

したがって、審決が、引用例には、「充放電コンデンサ6の両端子間にパルス高電圧を印加するための主制御用サイリスタ7を介して負荷を接続してなる高圧パルス電源が記載されている」(審決書3頁14~18行)と認定したこと、引用例発明の「制御用サイリスタ7」が本願発明の「高速高圧スイッチ」に相当し、制御用サイリスタ7のオン動作で負荷に「高圧パルス」が印加されるとした(同5頁3~8行)こと、本願発明と引用例発明とが「パルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源」(同5頁18~19行)の点で一致するとしたことは、いずれも誤りである。

<2> 引用例発明の充電指令信号及び充電停止信号は、操作者のスイッチ操作によってなされるものであり、また、サイリスタ7のトリガ手段も操作者の操作によってなされる(甲第5号証8欄5~11行)ので、引用例発明における上記スイッチ操作による充電電流の断続とトリガ手段との間には、スイッチ導通期間には充電電源からの出力電流を抑止し、非導通期間には電流抑止機能を解除するような電流阻止機構が欠如しており、また、それを具備する必要性もない。

しかも、引用例発明は、「定電流充電のため負荷側に短絡事故が有つても電源を破損する等が生じることはなく」(同号証10欄18~20行)と記載されているように、負荷側が短絡すなわちサイリスタのオン動作中に短絡して、電源から充放電コンデンサを介して負荷側に上記定電流が流れる際、サイリスタ7のオン時に電源から充放電コンデンサに電流が流れるものであるから、前述の「スイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止」するものではない。

したがって、本願発明と引用例発明とが、この点においても相違することは明らかであり、審決の上記認定は誤りである。

2  相違点Bについての判断等の誤り(取消事由2)

(1)  審決は、本願発明と引用例発明との相違点B、すなわち、「本願発明は、高速高圧スイッチ素子として、オン動作後ただちにオフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子を用いているのに対し、引用例のものは、オン動作後オフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチではあるが、オンからオフへ直ちに復帰させるものではない点」(審決書6頁14~19行)につき、「制御用サイリスタをオンからオフに復帰させる時間間隔は、必要に応じて適宜設定される事項であり、しかも、スイッチ素子をオン動作後直ちにオフ状態に復帰させることで特段の作用効果が生じるとも認められないから、上記B、の点は単なる設計変更にすぎない」(同7頁16行~8頁1行)と判断する。

しかし、引用例にはオンからオフに復帰させる時間間隔について全く記載されていないので、記載されていない時間間隔を適宜設定することは無理であり、しかも本願明細書の作用の項に、「オン・オフ型高速高圧スイッチ素子をオンおよびオフせしめて・・・負荷に周期的パルス高電圧を印加するものである。」(甲第4号証明細書12頁6~12行)と記載され、かつ、発明の効果の項に、「この発明は上述の通りであるので、・・・到達パルス周波数の上限が大巾に高く出来る」(同28頁7~13行)と記載されている。

このような作用効果は、引用例記載の制御用サイリスタ7のように操作者によってトリガするものでは期待できない特段の作用効果である。

したがって、審決の上記認定判断は誤りである。

(2)  また、審決は、「本願明細書に記載された、到達パルス周波数の上限が大幅に高く出来る、という効果は、負荷に周期的パルス高電圧を印加するという前提が存在して初めて生じる効果であるが、本願特許請求の範囲には、上記前提となる事項は何ら記載されていないので、この点を本願発明の効果と認めることは出来ない。」(審決書8頁3~9行)と認定する。

しかし、前記1(1)のとおり、本願明細書の特許請求の範囲に、負荷に周期的パルス高電圧を印加するという事項が記載されていることは明らかであるから、本願発明の効果に関する審決の上記認定は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  本願発明の特許請求の範囲の解釈の誤りについて

原告は、本願明細書の従来技術や目的に関連して記載した事項を根拠として、本願発明の「高圧パルス電源」は、オゾナイザ等の容量性負荷を対象とする高い周波数のパルス電圧を周期的に発生させるものである旨主張する。

しかし、従来技術や目的の記載が限定的であるからといって、本願発明の特許請求の範囲をそれに基づいて狭く解釈する必然性は認められない。本願発明の要旨は特許請求の範囲の記載により認定されるべきであるところ、同請求の範囲第1項には、本願発明の「高圧パルス電源」がパルス電圧を周期的に発生させる旨の記載はない。

また、原告は、本願発明の「高速高圧スイッチ素子」につき、本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載(甲第4号証明細書10頁15~19行)を根拠として、この「高速高圧スイッチ素子」は周期的に短時間導通せしめる機能を持つものであり、このことから、出力電圧が周期的パルス電圧であると主張する。

しかし、高速高圧スイッチ素子とは、字義どおり高電圧を高速にスイッチする素子であり、本願明細書の特許請求の範囲には、「周期的に短時間導通せしめる」点については何ら規定されていないし、原告の根拠とする発明の詳細な説明の項の記載は、本願発明の「高速高圧スイッチ」を定義するものではない。高速高圧スイッチ素子を「周期的に短時間導通せしめる」かどうかは、この素子を操作するための他の回路の構成によるものであって、高速高圧スイッチ素子がそれ自体に有する特性ではない。

さらに、原告は、本願明細書において、「パルス電圧」における「パルス」が周期的パルスであると定義されていると主張するが、本願明細書の発明の詳細な説明には、「パルス電圧」が周期的パルスであると定義する記載は見当たらない。

また、本願発明の「パルス電圧」が一般的な用語として解釈されるべきであるとしても、岩波理化学辞典第3版(乙第3号証)の「パルス」の項には、「一般に、ある量がきわめて短い時間だけ変化するとき、その部分をパルスという.・・・一定の周期をおいて発生されるものもあり」と記載されているとおり、「パルス」という用語が一義的に周期的であると解釈できないことは、明らかである。

さらに、出願当初の明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲第1項の末尾の「以後、上記の動作を周期的にくり返して、該負荷に周期的パルス高電圧を印加することを特徴とする所の高圧パルス電源」との記載が平成3年10月18日付けの手続補正書(甲第4号証)で削除されたことは、補正により、パルスが周期的であるか否かによらないように特許請求の範囲を拡張したものと解されるから、「パルス」と表現しただけでは、周期的であるといえないことは当然である。

(2)  一致点の誤認について

<1> 引用例(甲第5号証)には、「充放電コンデンサ6に充電された電荷は主制御用サイリスタ7を導通させることによって母材8および溶植用ピン9を通じて急激に放電し、この放電エネルギーによつて溶植作用がなされるものである。」(同号証3欄13~17行)と記載されており、引用例の図面第1図に記載された装置は、火花放電を起こさせて溶接することを目的とするものであるから、この装置の発生する電圧がいわゆる「高電圧パルス」及び「高圧パルス」であることは当業者に自明のことであり、引用例発明が、パルス高電圧を負荷に印加するための高圧パルス電源であることは明らかである。

これに対し、前記(1)のとおり、本願発明の「高速高圧スイッチ素子」それ自体は、周期的に短時間導通せしめる機能を持つものでなく、出力電圧が、必然的に「周期的」な高圧パルス電圧となるものではない。

したがって、審決における引用例発明の認定、その制御用サイリスタ7が、本願発明の高速高圧スイッチに相当し、制御用サイリスタ7のオン動作で負荷に高圧パルスを印加するものであるとした点、本願発明と引用例発明が「パルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス高電圧」として一致するとした点は、いずれも誤りがない。

<2> 引用例には、「操作者が充電指令回路18に充電指令信号を送出すると、論理回路20が開き・・・トランジスタスイツチング回路3の各トランジスタに作用し、この結果変圧器4の一次側には高周波電流が加わり、昇圧された後整流され、これによつて充放電コンデンサ6の充電がなされる。充放電コンデンサ6の端子電圧が上昇し設定電圧に達すると、抵抗R2にて検出され充電停止回路19が作動し、その出力によつて論理回路20が閉じ、トランジスタスイツチング回路3の動作を停止させ、充電作用が完了する。この状態でサイリスタ7をトリガすると・・・放電電流が流れ」(甲第5号証8欄13行~9欄6行)、「充電電圧が設定値に達した場合に自動充電停止作用が得られ、かつ放電後は充電操作をなさない限り主充電回路の作用は停止する。」(同号証10欄5~7行)と、それぞれ記載されている。また、引用例発明では、サイリスタ7が導通後、急激に放電電流が流れる(同3欄13~17行)のであるから、サイリスタ7は急速にオフ状態となり、次の充電指令信号の送出前にサイリスタ7がオフ状態になっていることは明らかなことである。

さらに、付言すれば、コンデンサに充電のためのスイッチと放電のためのスイッチが接続されたパルス電源装置においては、充電のためのスイッチと放電のためのスイッチとを同時にオンしないようにすることは常套的に採用される技術事項である(乙第1、第2号証)。

したがって、引用例発明において、充放電コンデンサの充電は、充電指令信号が送出されてから充電停止回路が作動するまでの間行われ、その後サイリスタ7がオンして充放電コンデンサが放電するものであり、充放電コンデンサの再度の充電は、もう一度充電指令信号が送出するまで行われないように動作するものである。すなわち、充電が停止している状態でサイリスタ7をオンし、放電が終了してサイリスタ7がオフしているときに充電指令信号で充電を行うものである。

そして、引用例発明のサイリスタ7は、前記(1)のとおり、本願発明のオン・オフ型高速高圧スイッチ素子に相当するものであるから、引用例発明のサイリスタ7がオンしている期間は、本願発明のオン・オフ型高速高圧スイッチ素子の導通期間た相当し、オフしている期間は、同じく非導通期間に相当する。したがって、引用例発明は、スイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止し、非導通期間には電流抑止機能を解除する電流阻止機構を具備するものであるから、審決の一致点の認定に誤りはない。

なお、引用例の「定電流充電のため負荷側に短絡事故が有つても電源を破損する等が生じることはなく」(甲第5号証10欄18~20行)との記載は、操作を誤って短絡事故が発生したような異常時においても悪影響が少ないことを述べたものであるから、引用例発明が、通常時の動作において、「スイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止」することには変わりはない。

2  取消事由2について

(1)  引用例発明も、パルス電源に関するものである以上、引用例発明のサイリスタがオンしで一定期間導通した後、オフして非導通となるものであり、オンからオフの間に一定の時間を有することは明らかであるから、その時間間隔を適宜設定することができないとする原告の主張には、理由がない。

(2)  前記のとおり、本願明細書の特許請求の範囲には、負荷に周期的パルス高電圧を印加するという記載がないのであるから、それを前提として生ずる本願発明の効果についての原告の主張は、失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の誤認)について

(1)  本願発明の特許請求の範囲の記載の解釈について

本願発明の特許請求の範囲の記載が前示のとおりであることは、当事者間に争いがない。

この特許請求の範囲の「パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間にパルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において」との記載につき、原告は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、「パルス」は周期的パルスであることは明らかであり、したがって、本願発明の「高圧パルス電源」は、高い周波数のパルス電圧を周期的に発生させるものである旨主張する。

しかし、「パルス」とは、昭和46年5月20日発行の岩波理化学辞典第3版(乙第3号証)にみられるように、「一般に、ある量がきわめて短い時間だけ変化するとき、その部分をパルスという.・・・電流、電波などで信号に用いられるものをさすことが多い.一定の周期をおいて発生されるものもあり、間歇的動作によるので大きい尖頭出力が得られる」と理解されており、電気工学の分野でも、昭和37年8月20日発行の電気工学用語辞典(甲第7号証)の示すとおり、「継続時間の短かい電圧または電流の波形.多くの場合一定の周期的繰返しを有しているものをいう.」と理解されていることが認められる。

すなわち、パルス電圧とは、継続時間の短かい電圧のことをいい、周期的な繰り返しを行うものだけを意味するのではなく、そうでないものを含むものであると一般に理解されていることが認められ、したがって、本願発明の「パルス電圧成形用高圧コンデンサ」、「パルス高電圧」、「高圧パルス電源」の「パルス」を、原告主張のように、周期的な繰り返しを行うパルスの意味に限定して解することはできない。

また、原告は、「高速高圧スイッチ」は、周期的に短時間導通することにより、周期的パルス電圧を負荷に印加するものである旨主張するが、「高速高圧スイッチ」それ自体は、特許請求の範囲に「高速高圧スイッチ素子として、オン動作後直ちにオフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子を用いる」と記載されているのであり、この記載からは、「高速高圧スイッチ」が周期的にオン・オフすることまで意味すると理解することはできない。

この点を本願明細書(甲第2~第4号証)の発明の詳細な説明及び図面についてみると、その図面第1図、第2図(甲第2号証)に示された実施例は、「負荷28の両端に・・・周期的に第2図(b)のVdに示す如き周期的パルス高電圧を印加する」(甲第4号証明細書19頁1~3行)ものであるが、これにつき、「11、12は上記高圧変圧器2の一次巻線3と低圧交流電源4の間に挿入接続された、逆並列接続のサイリスター素子で、それぞれのゲート13、14に制御回路15よりゲート信号電流を供給することによりそれぞれターン・オンせしめうる。16は上記オン・オフ型高速高圧スイッチ素子としてのサイリスターで、そのゲート17に制御回路18よりゲート信号電流を供給することによりターン・オンしてオン状態となり、次いでターン・オフ回路19より逆電流を供給してサイリスター16の電流をゼロとすることによりターン・オフしてオフ状態が出来る。」(同15頁18行~19頁10行)、「まず各サイリスター11、12のゲート13、14に交流電圧の1サイクルの正・負の半周期のそれぞれ電圧ゼロ時点より、ある位相だけおくれた時点t1、t2において、制御回路15より信号電流を与えてこの時点からそれぞれをターン・オンせしめるとその結果、両波整流回路6の出力端子7、8には斜線で示すVτの如き負極性の起電力があらわれ、パルス電圧成形用コンデンサー9を負に充電する。・・・次に、交流電圧の次の1サイクルにはサイリスター11、12のゲート13、14への信号電流の供給を停止し、かつこのサイクル内の適当な時点t9においてサイリスター16のゲート17に制御回路18より信号電流を供給すると、サイリスター16は瞬時にターン・オンし、コンデンサー9の充電電圧は出力端子24、25を介して負荷28の両端に印加される。・・・次に、同じサイクル内の時点t4においてターン・オフ回路19を動作せしめてサイリスター16に逆電流を供給、その電流をゼロにするとサイリスター16はターン・オフしてオフ状態に復帰する。その次の交流電圧のサイクルにおいて再び時点t'1、t'2において、逆並列サイリスター11、12をターン・オンせしめてコンデンサー9を充電し、以上上述の動作をくり返して、負荷28の両端に・・・周期的に第2図(b)のVd、に示す如き周期的パルス高電圧を印加する。」(同17頁1行~19頁3行)と記載されていることが認められる。

これによれば、本願発明の「パルス電圧成形用高圧コンデンサー」であるコンデンサー9は、制御回路15の指令により周期的にオン・オフされるサイリスター11、12により高圧変圧器の二次側整流回路から充電され、「高速高圧スイッチ素子」であるサイリスター16は、制御回路15と接続された制御回路18、19の指令により周期的にオン・オフされて、負荷28の両端に周期的パルス高電圧を印加するものであり、この構成があることにより初めて、本願発明の高圧パルス電源が周期的パルス高電圧を出力することになることが明らかである。

そして、本願明細書において、この実施例の構成は、特許請求の範囲第1項の実施態様項として記載されている特許請求の範囲第3項に挙げられており、そこでは、上記周期的パルス高電圧を出力するための構成が、「該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子としてのサイリスターをオフ状態に保って、その期間に該逆並列(原文の「波列」は「並列」の誤記と認める。)接続の2組のサイリスターを順次該交流電源の順方向半サイクル毎にターン・オン(原文の「オフ」は「オン」の誤記と認める。)せしめて、該パルス電圧成形用高圧コンデンサーを充電し、しかるのち該逆並列接続の2組のサイリスターをオフ状態に保ち、このオフ状態期間内に、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子をターン・オフせしめる如く、上記各サイリスターに供給するゲート信号を制御することを特徴とする」と明示されている。この実施態様項記載の構成が特許請求の範囲第1項に記載されていないことは、本願発明の「高圧パルス電源」が、実施態様項記載の周期的パルス高電圧を出力する構成のものに限定されず、周期的でないパルス高電圧を出力するものを含むことを端的に示しているといわなくてはならない。

このことは、また、本願の平成3年10月18日付けの手続補正書(甲第4号証)による補正前の明細書(甲第2、第3号証)における特許請求の範囲第1項末尾の「以後上記動作を周期的に繰り返して、該負荷に周期的パルス高電圧を印加することを特徴とする所の高圧パルス電源」(甲第3号証6頁4~6行)との記載が、同手続補正書(甲第4号証)による補正で削除されて、周期的パルス高電圧を出力するための構成の記載がない現在の特許請求の範囲第1項の記載となった経緯からも裏付けられるところである。

したがって、特許請求の範囲の記載の解釈の誤りをいう原告の主張は採用できない。

(2)  一致点の誤認について

<1> 引用例発明が、充放電コンデンサ6に充電された電荷を主制御用サイリスタ7を導通させることにより、火花放電を起こして溶接することを目的とするものであり、パルス高電圧を負荷に印加するための高圧パルス電源であって、必ずしも周期的にパルス高電圧を発生させるものでないことは、当事者間に争いがない。

一方、本願発明の「高速高圧スイッチ素子」それ自体は、周期的に短時間導通せしめる機能を持つものでなく、本願発明が周期的パルス高電圧を出力する高圧パルス電源に限定されないと解すべきことは、前示のとおりである。

したがって、審決が、引用例(甲第5号証)には、「充放電コンデンサ6の両端子間にパルス高電圧を印加するための主制御用サイリスタ7を介して負荷を接続してなる高圧パルス電源が記載されている」(審決書3頁14~18行)と認定したこと、引用例発明の「制御用サイリスタ7」が本願発明の「高速高圧スイッチ」に相当し、制御用サイリスタ7のオン動作で負荷に「高圧パルス」が印加されるとした(同5頁3~8行)こと、本願発明と引用例発明とが「パルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源」(同5頁18~19行)の点で一致するとしたことは、いずれも正当であり、原告主張の誤りはない。

<2> 本願発明が「該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子のオン動作後、少なくともそのオフ状態が回復するまでのスイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止して該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を抑止し、これにより該負荷への続流電流の発生を防止すると共に、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子の非導通期間には上記出力電流抑止機能を解除して、該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を可能ならしめる所の電流阻止機構を具備すること」は、当事者間に争いがなく、この事実によれば、本願発明の電流阻止機構とは、スイッチが導通してコンデンサが放電している間は、該充電電源からの出力電流を抑止してコンデンサへの充電を抑止し、放電が終了して非導通期間となると、電流抑止機能を解除してコンデンサへの充電を可能にするものであると認められる。

これに対し、引用例(甲第5号証)には、「操作者が充電指令回路18に充電指令信号を送出すると、論理回路20が開き・・・これによつて充放電コンデンサ6の充電がなされる。充放電コンデンサ6の端子電圧が上昇し設定電圧に達すると、抵抗R2にて検出され充電停止回路19が作動し、その出力によつて論理回路20が閉じ、トランジスタスイツチング回路3の動作を停止させ、充電作用が完了する。この状態でサイリスタ7をトリガすると・・・放電電流が流れ溶植がなされることになる。連続して操作する場合は、再び充電指令操作を行なえばよく、作業が終了した場合にあつては、そのまゝ放置しても充電指令回路18に送出される充電停止信号にて論理回路20が閉じているので不用意に充電作用がなされることはない。」(同号証8欄13行~9欄12行)、「充電電圧が設定値に達した場合に自動充電停止作用が得られ、かつ放電後は充電操作をなさない限り主充電回路の作用は停止する。」(同10欄5~7行)と、それぞれ記載されていることが認められる。これらの記載によれば、引用例発明においては、充放電コンデンサの電圧が上昇し設定電圧値に達すると、充電停止回路が作動して自動的に充電作用が停止し、サイリスタをトリガして導通することにより放電電流が流れた後も、再び充電指令操作を行なうまで、充電停止状態が継続するものと認められる。

したがって、引用例発明において、サイリスタをトリガすること及び再充電を指令することが操作者の操作により行われるとしても、充電電圧が設定値に達した後に再充電指令を行うまでの間は、放電中も含めて該コンデンサへの充電が阻止されており、再充電指令により充電が再開されることは明らかであるから、本願発明における前記電流阻止機構と同様の機能を具備しているものと認められる。

<3> 原告は、引用例の「定電流充電のため負荷側に短絡事故が有つても電源を破損する等が生じることはなく」(同10欄18~20行)との記載を根拠にして、引用例発明において、コンデンサ負荷電流が流れているときも、電源から充電が行われている旨主張する。

しかしながら、引用例発明では、充放電コンデンサへの充電過程で電圧変動によって充電電流が変化した場合であっても、電流変動が補償された定電流で充電が行われる(同9欄13行~10欄2行)ものであり、上記記載は、該コンデンサへの充電過程で負荷側において短絡事故が発生しても電源を破損することがない旨を記述したにすぎないものであり、負荷への放電中に充電が行われることを示したものではないと認められる。そもそも、引用例発明において、充電電圧が設定値に達した後に再充電指令を行うまでの間は、放電中も含めて該コンデンサへの充電が阻止されていることは、前記認定のとおりであるし、実公昭57-54930号公報(乙第1号証)及び実公昭47-18345号公報(乙第2号証)によれば、コンデンサに充電のためのスイッチと放電のためのスイッチが接続されたパルス電源装置においては、充電のためのスイッチと放電のためのスイッチとを同時にオンしないようにすることは、きわめて当然に採用される技術事項であるから、このことからみても、原告の上記主張は失当である。

したがって、引用例発明は、スイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止し、非導通期間には電流抑止機能を解除する電流阻止機構を具備するものであるから、審決の一致点の認定(審決書5頁14行~6頁8行)に誤りはない。

2  取消事由2(相違点Bについての判断等の誤り)について

(1)  制御用サイリスタをオンからオフに復帰させる時間間隔が、必要に応じて適宜設定される事項であることは、当事者間に争いがない。

ところで、「パルス電圧」とは、前記のとおり、継続時間の短かい電圧をいうものであり、引用例発明も、パルス電圧を発生させるものである以上、引用例発明のサイリスタがオンして一定期間導通した後にオフして非導通となるものであり、オンからオフの間に一定の時間を有することは明らかである。

そうすると、引用例発明においては、オンからオフヘの時間間隔が記載されていないから、これを適宜設定することができないとする原告の主張には理由がなく、当該時間間隔は、引用例発明においても必要に応じて適宜設定することが可能な設計事項というべきである。

(2)  原告は、本願発明が周期的にパルス高電圧を印加することを前提として、到達パルス周波数の上限が大幅に高くできるという特段の効果を生ずる旨主張する。

しかしながら、本願発明は、前示のとおり、周期的にパルス高電圧を出力するものに限定されるものではないから、それを前提とする原告の主張は、採用できないことが明らかである。

したがって、審決の相違点Bについての判断及び本願発明の効果の認定(審決書7頁16行~8頁9行)に誤りはない。

3  以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、審決の認定判断は正当であって、他に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成3年審判第17928号

審決

東京都北区西ケ原3-2-1-415

請求人 増田閃一

東京都中央区日本橋2-6-3 斉藤特許ビル 斉藤特許事務所

代理人弁理士 斉藤侑

東京都中央区日本橋2丁目6番3号 斎藤特許ビル 斉藤特許事務所

代理人弁理士 伊藤文彦

東京都中央区日本橋2-6-3 斉藤特許ビル

代理人弁理士 斉藤秀守

昭和59年 特許願第7770号「高圧パルス電源」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年8月10日出願公開、特開昭60-152118)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.本願は、昭和59年1月19日の出願であって、その発明の要旨は、明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「高圧変圧器の一次側に交流電源を、二次側に整流回路を接続してなる高圧充電電源の両出力端子間にパルス電圧成形用高圧コンデンサを接続し、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間にパルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間に逆充電防止用の逆バイアス整流器を接続し、かつ高速高圧スイッチ素子として、オン動作後直ちにオフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子を用いると共に、該高圧充電電源に下紀の電流阻止機構、即ち、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子のオン動作後、少なくともそのオフ状態が回復するまでのスイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止して該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を抑止し、これにより該負荷への続流電流の発生を防止すると共に、該オン・オフ型高速高圧スイッチ素子の非導通期間には上記出力電流抑止機能を解除して、該パルス電圧成形用高圧コンデンサーの充電を前能ならしめる所の電流阻止機構を具網することを特徴とする所の高圧パルス電源。」

Ⅱ.これに対して、原査定の拒絶理由に引用された、特開昭54-66353号公報(以下引用例という。)には、

(第1図参照)変圧器4の一次側にトランジスタスイッチング回路3を、二次側に全波整流回路5を接続してなる充電電源の両出力端子間に、充放電コンデンサ6を接続し、該充放電コンデンサ6の両端子間にパルス高電圧を印加するための主制御用サイリスタ7を介して負荷を接続してなる高圧パルス電源

が記載されている。

そしてその装置の動作説明として、

(公報第3ページ右上欄第13行ないし同右下欄第7行参照)

「操作者が充電指令回路18に充電指令信号を送出すると、論理回路20が開き・・・トランジスタスイッチソグ回路3の各トランジスタに作用し、この結果変圧器4の一次側には高周波電流が加わり、昇圧された後整流され、これによって充放電コンデンサ6の充電がなされる。 充放電コンデンサ6の端子電圧が上昇し設定電圧に達すると、充電停止回路19が作動し、その出力によって論理回路20が閉じ、トランジスタスイッチング回路3の動作を停止させ、充電作用が完了する。この状態でサイリスタ7をトリガすると・・・放電電流が流れる。

連続して操作する場合は、再び充電指令操作を行えばよく、作業が終了した場合にあっては、そのまま放置しても・・・不用意に充電作用がなされることはない。・・・放電後は充電操作をなさない限り主充電回路の作用は停止する」

と記載されている。

Ⅲ.本願発明と引用例に記載されたものを対比すると、引用例における、変圧器4、トランジスタスイッチング回路3、全波整流回路5、充放電コンデンサ6、制御用サイリスタ7は、それぞれ本願発明における、高圧変圧器、交流電源、整流回路、パルス電圧成形用高圧コンデンサ、高速高圧スイッチ、に相当し、また、引用例のものは、制御用サイリスタ7のオン動作で負荷に高圧パルスを印加しているときは、コンデンサへの充電が行われず、そして制御用サイリスタ7がオフ状態になった後、充電指示が行われた時のみコンデンサへの充電が行われるよう制御されるのであるから、

両者は、

高圧変圧器の一次側に交流電源を、二次側に整流回路を接続してなる高圧充電電源の両出力端子間にパルス電圧成形用高圧コンデンサを接続し、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間にパルス高電圧を印加するための高速高圧スイッチを介して負荷を接続してなる高圧パルス電源において、該高速高圧スイッチ素子のオン動作後、少なくともそのオフ状態が回復するまでのスイッチ導通期間の間、該充電電源からの出力電流を抑止して該パルス電圧成形用高圧コンデンサの充電を抑止し、これにより該負荷への続流電流の発生を防止すると共に、該高速高圧スイッチ素子の非導通期間には上記出力電流抑止機能を解除して、該パルス電圧成形用高圧コンデンサの充電を可能ならしめる所の電流阻止機構を具備する点

で一致し、一方

A.本願発明は、パルス電圧成形用高圧コンデンサの両端子間に逆充電防止用の逆バイアス整流器を接続しているのに対し、引用例にはその構成がない点

B.本願発明は、高速高圧スイッチ素子として、オン動作後ただちにオフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子を用いているのに対し、引用例のものは、ナン動作後オフ状態に復帰可能なオンオフ型高速スイッチ素子ではあるが、オンからオフへ直ちに復帰させるものでない点

で、相違する。

Ⅳ.上記相違点について検討すると、原査定で示されているように(特に実開昭56-4392号公報参照)、コンデンサに蓄積された電荷を高速スイッチ手段により負荷に放電して高圧パルスを発生するものにおいて、電荷蓄積用コンデンサの両端子間に逆充電防止用の逆バイアス整流器を接続することは周知な技術である。

そして引用例1に記載されたものが、コンデンサに蓄積された電荷を高速スイッチ手段により負荷に放電して高圧パルスを発生させるものであることから、引用例1のものに上記周知技術を適応することは、当業者が容易に想到できるものと認められる。

よって上記A、の点は当業者が容易になしうることと認められる。

また、制御用サイリスタをオンからオフに復帰させる時間間隔は、必要に応じて適宜設定される事項であり、しかも、スイッチ素子をオン動作後直ちにオフ状態に復帰させることで特段の作用効果が生じるとも認められないから、上記B、の点は単なる設計変更にすぎないと認められる。

なお、本願明細密に記載された、到達パルス周波数の上限が大幅に高く出来る、という効果は、負荷に周期的パルス高電圧を印加するという前提が存在して初めて生じる効果であるが、本願特許請求の範囲には、上記前提となる事項は何ら記載されていないので、この点を本願発明の効果と認めることは出来ない。

Ⅴ.したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結諭のとおり審決する。

平成6年2月24日

審判長 特許庁審判官(略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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